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JRRS若手優秀論文賞 受賞論文

JRRS若手優秀論文賞 エントリー論文

研究紹介

Our Research 2023
​優秀論文賞対象期間(2022/9/3~2023/10/11

No. 2023-5 廣瀬 エリ

日本原子力研究開発機構・環境技術開発センター・基盤技術研究開発部・博士研究員

Mitochondrial Metabolism in X-Irradiated Cells Undergoing Irreversible Cell-Cycle Arrest

Hirose, E.; Noguchi, M.; Ihara, T.; Yokoya, A.

International Journal of Molecular Sciences, 24(3):1833, 2023

https://doi.org/10.3390/ijms24031833

放射線照射された細胞は、細胞老化に似た不可逆的細胞周期停止(早期老化)する場合があることが知られている。このような細胞は分裂をしない分代謝活性が低下すると予想されるが、本研究ではその逆となる興味深い結果を得た。私たちは、WI-38(初代培養由来)細胞に20 GyのX線照射後、ミトコンドリア形態を蛍光ライブセル観察により調べた。その結果、低い膜電位部位を持つミトコンドリア内膜部位(ATP産生部位)面積に対する高い膜電位のそれの比が照射後5日目から有意に増加することから、早期老化細胞は依然として高い代謝能力を有していることを明らかにした。この代謝能により細胞外への分泌因子の高発現が起こることで、周囲の正常細胞に影響を与えるバイスタンダー効果が誘発される可能性がある。一方、BJ-5ta(不死化細胞)の場合高膜電位部位面積比の大きさに変化はなく、細胞系統で代謝変化のパターンが異なることも示唆された。これらの結果は分裂能を失った照射細胞が体組織の中で果たす役割に関してエネルギー代謝の視点から得られた新しい知見であり、将来の放射線治療における二次がん発生の低減化などに貢献すると期待される。

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No. 2023-4 関原 和正

神奈川県立がんセンター臨床研究所・がん生物学部・任期付研究員

Evaluation of X-ray and carbon-ion beam irradiation with chemotherapy for the treatment of cervical adenocarcinoma cells in 2D and 3D cultures

Sekihara K, Himuro H, Saito N, Ota Y, Kouro T, Kusano Y, Minohara S, Hirayama R, Katoh H, Sasada T, Hoshino D.

Cancer Cell International, 22(1):391, 2022

https://doi.org/10.1186/s12935-022-02810-9

治療の有効性を評価するために従来用いられてきた2D培養系は、腫瘍構造および細胞間接触が失われるため、生体内の腫瘍の状況を忠実に反映することができない。一方、近年注目を浴びている三次元(3D)細胞培養は、2D単層培養よりも生体内の腫瘍環境を模倣できるという報告があり、我々も2D培養では治療効果を過大評価してしまうが3D培養ではin vivoの結果と合致するという結果を得ている。そこで本研究では、培養が簡便かつハイスループットなスクリーニングに適している3Dスフェロイドを用いて、治療抵抗性を示す子宮頸部腺がんにおけるX線、炭素線および抗がん剤の抗腫瘍効果を評価した。2D培養ではどの処理でも線量(濃度)依存的に細胞生存率を低下させたが、3D培養するとスフェロイド内部の低酸素の影響でX線や抗がん剤では効果が減弱するのに対し炭素線ではその影響を受けなかった。
本論文成果は、重粒子線が子宮頸部腺がんに有効であることだけでなく、治療効果を正確に評価するためには2Dではなく3D培養を用いるべきであることを示唆していることから、今後の新規治療法開発の基礎となる研究を大きく躍進させることが期待できる。

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No. 2023-3 嵯峨 涼

弘前大学大学院・保健学研究科・助教

Translational study for stereotactic body radiotherapy against non-small cell lung cancer, including oligometastases, considering cancer stem-like cells enable predicting clinical outcome from in vitro data

Saga R, Matsuya Y, Sato H, Hasegawa K, Obara H, Komai F, Yoshino H, Aoki M, Hosokawa Y.

Radiotherapy and Oncology, 181, 109444, 2023

https://doi.org/10.1016/j.radonc.2022.10944

癌に対する放射線治療の治療効果は、分割線量や回数によって異なり、細胞生存率予測モデルを用いて予測される。しかし、従来の予測モデルは放射線抵抗性を考慮していないため、治療効果を過大評価する傾向があり、正確に予測することが出来ない。特に、一度に大線量を投与する体幹部定位放射線治療において、予測値と実際の治療効果のギャップが顕著に表れる。
そこで、本研究では放射線抵抗性を有する癌幹細胞の存在を明示的に考慮できる新しい細胞生存率予測モデルを開発した。このモデルの実用性を検証するため、肺癌細胞株の生存率と線量の関係を基に、肺癌患者に対する定位照射の局所制御率を予測し従来モデルと比較した。その結果、肺癌患者の局所制御率を従来モデルよりも精度良く再現することに成功した (図1.)。
本論文成果は、癌幹細胞を考慮することが、治療効果を高精度に予測するための重要な因子であることを示唆しており、患者ごとに異なる癌幹細胞割合から治療効果を予測することで、オーダーメイド治療計画の実現に期待できる。この成果は、プレス発表を行い、国内外のマスメディアで取り上げられ多くの注目を集めている。

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No. 2023-2 直江 翔太

岡山大学・大学院保健学研究科・大学院生

Effects of low-dose/high-dose-rate X-irradiation on oxidative stress in organs following forced swim test and its combined effects on alcohol-induced liver damage in mice

Naoe S, Fujimoto Y, Murakami K, Yukimine K, Tanaka A, Yamaoka K, Kataoka T.

Journal of Radiation Research, 64(4): 635-643, 2023

https://doi.org/10.1093/jrr/rrad030

東日本大震災に伴う東電福島第一原発事故後,放射線被曝などへの不安からうつ病やアルコール依存症を発症した被災者がいたと報告されている。他方,うつ病とアルコール摂取障害には双方向に因果関係があり,これに関するげっ歯類の研究報告例はあるものの,精神的ストレスとアルコールという異なる種類の環境酸化ストレス因子の複合曝露に対する低線量被曝による影響に関する報告例は皆無に近い。このため本研究では,マウスを用い,事前の低線量(0.1, 0.5 Gy)・高線量率(1.2 Gy/分)X線照射が,精神的ストレスとしての強制水泳試験(FST)と高用量のアルコール投与後の健康状態に及ぼす作用について,特に肝障害に着目し検討した。得られた結果例として,FSTとアルコール投与後の抗酸化機能と肝機能は著しく悪化したが,これに対し事前照射(特に0.5 Gy)は早期に改善させることが示唆できた。また,この作用機序の一端として,照射により肝臓の総グルタチオン量が相対的に増加することも示唆できた。以上の所見などは,複数の他の環境酸化ストレス因子に対する低線量被曝の影響に関して有益な知見を提供するものである。

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No. 2023-1 井山 慶大

長崎大学病院 高度救命救急センター

Objective stress values during radiation emergency medicine for future human resources: Findings from a survey of nurses

Iyama K, Sato Y, Ohba T, and Hasegawa A.

PLOS ONE, 17(9): e0274482. 2022

https://doi.org/10.1371/journal.pone.0274482

緊急被ばく医療分野では、医療者の業務従事に対する不安やストレスを原因とする人材不足が懸念されている(図1)。これまでストレスは質問紙票などで行う主観的な評価が主体であった。しかし今回シャツ型心電計を用いることで、緊急被ばく医療対応中の医療者が受けるストレスを、心拍変動から導き出されるストレス値として、客観的かつ経時的に定量化することに成功した。本研究では医療者が被ばく医療訓練中に行っていた作業別にストレス値を算出した(図2)。作業内容別にみると、除染作業中に被るストレスが最も高く、緊急被ばく医療対応中のストレスを効率的に低減するためには除染作業について重点的に教育・訓練を行うことが重要であることが客観的に示された。一方で防護衣着脱時にはストレスフリーとなっており、気が緩むことで自身の汚染につながる可能性も示唆された。
今後は一般の医療者においても、緊急被ばく医療に従事する際の不安やストレスを払拭するような教育・啓発活動が求められる。本学会から広く教育・啓発活動を行うことで、図1で示されるような負の連鎖を断ち切り、当該分野に従事する人材の安定供給につながることを期待する。

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