JRRS若手優秀論文賞 受賞論文
JRRS若手優秀論文賞 エントリー論文
研究紹介
Our Research 2025
優秀論文賞対象期間(2024/9/14~2025/10/10)
No. 2025-1 房 知輝
北海道大学大学院獣医学研究院 放射線学教室・講師
Dephosphorylation of branched-chain α-keto acid dehydrogenase E1α (BCKDHA) promotes branched-chain amino acid catabolism and renders cancer cells resistant to X-rays by mitigating DNA damage.
Tomoki Bo, Tsukasa Osaki, Junichi Fujii.
Biochem Biophys Res Commun. 742:151154. 2024.
放射線照射後のがん細胞では、中性アミノ酸輸送体LAT1を介した分岐鎖アミノ酸(BCAA)取込みが亢進し、これが細胞生存に寄与することを我々は報告した。LAT1によって細胞内に取込まれたBCAAはTCA回路を介したエネルギー代謝に利用されることで、がん細胞の生存に重要な役割を担うと考えられるが、その詳細は明らかではない。本研究の目的は、放射線照射後のがん細胞におけるBCAA代謝の役割の解明とした。BCAA代謝の律速酵素BCKDH複合体は、そのサブユニットであるBCKDH E1αの脱リン酸化により活性化される。そこで、ヒト膵臓がん由来Mia Paca2細胞を使用し、X線照射後のBCKDH E1αのリン酸化レベルを評価した。その結果、BCKDH E1αのリン酸化はX線照射後に線量に依存して有意に低下した。また、BCKDH E1αに対するsiRNA処理が放射線照射後の細胞に与える影響を評価したところ、BCKDH E1αノックダウンにより細胞内ATPレベルが低下し、放射線感受性が増加した。また、BCKDH E1αのノックダウンはX線照射後の分裂期崩壊および残存するDNA二本鎖切断量を増加させた。以上の結果は、以上の結果は、X線照射したがん細胞に起こるBCKDH E1αの脱リン酸化は、BCAA代謝を亢進させることでDNA修復能を高めて細胞生存の原因となるため、新たな治療標的となる可能性が考えられる。