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JRRS若手優秀論文賞 受賞論文

JRRS若手優秀論文賞 エントリー論文

研究紹介

Our Research 2025
​優秀論文賞対象期間(2024/9/14~2025/10/10

No. 2025-4 清水 直登

国立医薬品食品衛生研究所 再生・細胞医療製品部・研究員

Role of TDP2 in the repair of DNA damage induced by
the radiomimetic drug Bleomycin.

Naoto Shimizu, Kazuki Izawa, Mubasshir Washif, Ryosuke Morozumi, Kouji Hirota, Masataka Tsuda.

Genes and Environment. 28;47(1):7. 2025.

https://doi.org/10.1186/s41021-025-00329-9.

放射線はDNA二本鎖切断(DSB)を誘発し、ゲノムDNAに重篤な損傷を与える。これまで、多くの先行研究により放射線誘発DSBの修復機構は詳細に明らかにされてきた。一方、抗がん剤として使われる放射線類似作用物質(ブレオマイシンやカリケアミシンなど)もDSBを生成することは知られているが、その修復機構の詳細は明らかでない。ブレオマイシンはDSBの3'末端に3'グリコールリン酸(3'-PG)と呼ばれる損傷を生成する。

図111111.png

 本研究では、生化学的解析や遺伝学的解析から、ブレオマイシンが誘発する3’-PGを取り除く酵素を明らかにした。3’-PGは、主にチロシル-DNAホスホジエステラーゼ1(TDP1)と呼ばれる酵素によって取り除かれ、TDP1不在時には、バックアップとしてTDP2によって取り除かれることを明らかにした。3’-PG除去後、ブレオマイシン誘発DSBは主に非相同末端結合によって修復されることも示した。これらの知見は、放射線類似作用物質が誘発するDSBの新規修復機構解明に貢献する。また、TDP阻害剤とブレオマイシンを併用することで、より治療効果の高い がん治療法につながると期待できる。

No. 2025-3 諏訪 達也

京都大学医学部附属病院 放射線治療科・助教

UPR-induced intracellular C5aR1 promotes adaptation to the hypoxic tumour microenvironment by regulating tumour cell fate.

Suwa T, Lee K, Chai I, Clark H, MacLean DJ, Machado N, Berriguete GR, Higgins GS,
Hammond EM, Olcina MM.

Cell Death & Disease. 22;16(1):547. 2025.

https://doi.org/10.1038/s41419-025-07862-z.

腫瘍内微小環境でがん細胞は腫瘍免疫を回避し放射線抵抗性を持つ。照射後に抗腫瘍免疫が活性化するため、腫瘍免疫に関する研究が近年行われているが、免疫機構を標的にすると有害事象が増加する。

 自然免疫機構である補体系は、感染やアレルギー領域で広く研究されている。自己免疫疾患の抗好中球細胞質抗体関連血管炎や筋萎縮性側索硬化症の治療薬として補体受容体C5aR1阻害剤の臨床試験が行われ、安全性に関する知見が蓄積されている。

図1.png

 近年、腫瘍内微小環境に起因する補体系の調節異常が腫瘍増殖を促進することが報告された。本研究は、C5a-C5aR1軸が腫瘍と正常組織で役割が異なることに着目した。患者検体、マウスモデル、2D/3D細胞実験を組み合わせた解析により、腫瘍内微小環境におけるC5a-C5aR1軸の調節異常を解明し、C5aR1が「照射後の有害事象軽減、および、腫瘍内微小環境に起因する放射線抵抗性の改善に資する治療標的」である ことを見出した。

 本戦略は放射線治療の治療可能域を拡大するため、腫瘍と正常組織で薬剤の移行性に差があっても、治療効果が期待できる。新規免疫放射線治療として、本賞の候補として推薦する。

No. 2025-2 西川 佳孝

京都大学大学院医学研究科 健康情報学・准教授

Stable iodine intake and thyroid screening outcomes after the Fukushima Nuclear Disaster: an observational study.

Nishikawa, Y., Oguro, F., Suzuki, C., Kobashi, Y., Ito, N., Takahashi, Y., Nakayama,
T., Goto, A., & Tsubokura, M.

Journal of clinical endocrinology and metabolism. 19, e142, 1–5. 2025.

https://doi.org/10.1210/clinem/dgaf312

本成果は、原子力災害発生時における安定ヨウ素剤内服の実態と甲状腺への影響を、福島第一原子力発電所事故後の被災地域において、住民の方を対象に検証した点に大きな意義があります。安定ヨウ素剤の服用が甲状腺の検査結果や体積に顕著な影響を及ぼさなかったこと、さらに服用による健康被害が見られなかったことは、国際的にみても貴重な情報で、今後の災害対策指針や健診体制の議論に重要なエビデンスを提供するものです。特に、住民の普段の安定ヨウ素剤の服用状況を確認したうえで評価を行っている点は、私たちの知る限り、唯一の知見です。

 長年、福島県で診療をしていたからこそ実施できた調査で、是非放射線影響学会メンバーにも知っていただきたいと思い、応募させていただく次第です。

 今後は、他地域での放射線災害後の甲状腺がん予防策に関する調査や、子ども・保護者など個別のニーズに対応した情報提供体制の構築に活かし、地域社会と専門家をつなぐ研究として発展させていきたいと考えています。

No. 2025-1 房 知輝

北海道大学大学院獣医学研究院 放射線学教室・講師

Dephosphorylation of branched-chain α-keto acid dehydrogenase E1α (BCKDHA) promotes branched-chain amino acid catabolism and renders cancer cells resistant to X-rays by mitigating DNA damage.

Tomoki Bo, Tsukasa Osaki, Junichi Fujii.

Biochem Biophys Res Commun. 742:151154. 2024.

https://doi.org/10.1016/j.bbrc.2024.151154

放射線照射後のがん細胞では、中性アミノ酸輸送体LAT1を介した分岐鎖アミノ酸(BCAA)取込みが亢進し、これが細胞生存に寄与することを我々は報告した。LAT1によって細胞内に取込まれたBCAAはTCA回路を介したエネルギー代謝に利用されることで、がん細胞の生存に重要な役割を担うと考えられるが、その詳細は明らかではない。本研究の目的は、放射線照射後のがん細胞におけるBCAA代謝の役割の解明とした。BCAA代謝の律速酵素BCKDH複合体は、そのサブユニットであるBCKDH E1αの脱リン酸化により活性化される。そこで、ヒト膵臓がん由来Mia Paca2細胞を使用し、X線照射後のBCKDH E1αのリン酸化レベルを評価した。その結果、BCKDH E1αのリン酸化はX線照射後に線量に依存して有意に低下した。また、BCKDH E1αに対するsiRNA処理が放射線照射後の細胞に与える影響を評価したところ、BCKDH E1αノックダウンにより細胞内ATPレベルが低下し、放射線感受性が増加した。また、BCKDH E1αのノックダウンはX線照射後の分裂期崩壊および残存するDNA二本鎖切断量を増加させた。以上の結果は、以上の結果は、X線照射したがん細胞に起こるBCKDH E1αの脱リン酸化は、BCAA代謝を亢進させることでDNA修復能を高めて細胞生存の原因となるため、新たな治療標的となる可能性が考えられる。

© 2020  日本放射線影響学会 若手部会

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